ここ数日曇りや雨で肌寒い日々でしたが、今日は晴れて暑くなりそうです。10月18日、調査会です。集合場所の堤防下にはチカラシバの黒い穂がたくさん揺れています。14名が集まりました。久しぶりに参加のKさん、Wさんの顔があります。今日は貧栄養の地を歩きます。
堤防を上がっていくと、ユウガギクがまず目に入りました。白色の舌状花に黄色の管状花、花が目立ちます。カントウヨメナと区別がつきにくいとひとしきり同定ポイントの談義。葉の切れ込みが深く表面がざらついている、種子に腺毛がない、生育場所はカントウヨメナより少し乾いた所などなど。しかし、少々決め手を欠き、あやふやに。堤防の上であることを考慮するとユウガギクでいいような…?初めて聞く名のフシグロは、どうやら既に実を裂開させて種子を撒き散らした後の、半枯れ状態。オガルカヤ、ヌメリグサに続き、ゴマクサの黄色い花がまだ残っていました。
堤防下では、ナガボノシロワレモコウが白い花を咲かせています。一方、シロバナナガバノイシモチソウは花が終わり、実になっていました。糸状の葉には腺毛がびっしりと生え、そこに小さな黒い虫が捕えられています。腺毛と葉を屈曲させて虫を包み込み、消化酵素で分解していくそうです。葉から内部に栄養を吸収できるのでしょう。直ぐ近くに、ミミカキグサの一団も生えています。黄色の花が終わったものでは、萼が耳かきのように覆ってあかね色の実に変わっています。土の中では捕虫嚢を使って線虫などを捕らえるそうです。周囲にはイトイヌノヒゲ、ヒメイヌノハナヒゲ、更にはアオコウガイゼキショウがありました。他にカワラスガナ、アゼガヤツリ、ミズガヤツリ、アキノウナギツカミ、コマツナギ、ヤノネグサが見つかりました。
続いて堤防沿いから背の高いヨシの薮を歩くと、ぽっかりと開けた場所に辿り着きました。ヨシの薮が途切れて、こちら側は貧栄養の草原です。植生がこんなにハッキリと線引きされているのはいったいどうしてなのだろうと疑問が生じます。答えをOさんが教えてくれました。ヨシが茂っている場所は、かつてヨシやカサスゲの栽培のため、施肥された富栄養の土地であり、貧栄養の草原とは植生が異なるようです。草原内では、ヒメシオンを見つけました。イヌセンブリが複数株あります。トダシバが周りに生えています。ウシノシッペイもありました。しかし、この草原にもヨシ側からセイタカアワダチソウが入り込んで来ているようです。いつまで貧栄養の状態が続くのか、危うい状況かもしれません。
貧栄養の草原から堤防まで戻って来ました。ヤマイとシカクイは、茎頂に小穂が1つだけつくのでよく似ていますが、ヤマイはシカクイとは異なり小穂に 1つの苞葉がついている点で、見分けることができます。コブナグサは独特の姿形を持っています。ぷっくりと幅広に膨らんだ小鮒形をした葉の縁が波打ち、葉の基部には毛が生えています。茎は葉の基部から気持ち良いほどすっと伸びて、てっぺんに紫を帯びた穂を束になってつけています。八丈島では黄八丈の染料にするのでコブナグサを栽培していると言います。一面を覆う紫の穂が風に一斉にそよぐ光景は、きっと美しいに違いありません。
さあ、お開きの時間です。今日も植物の造形を堪能できました。
今年の調査会は、花の時期が終了し、本日で終わりになりました。来年の春まで調査会はお休みです。その代わり、春に調査したサクラソウの報告会を開催する予定です。Oさん曰く、興味深い結果が出ているとのこと。どのような結果なのか大変気になる所ですが、楽しみに待ちましょう。(KMae)
10月4日調査会、曇り空です。参加者13名が集合した堤防で、心に留め置くべきお話がありました。最近の渡良瀬遊水地は貧栄養を好む湿地性の希少植物にとって厳しい環境になりつつある、富栄養化が進んでいるというのです。長らく遊水地の植生を見続けているOさんの危機感を含んだ言葉でした。
さて、今日の調査会は掘削池の水路を歩きます。水があったはずの水路は現在干上がり、泥の地面にひび割れが入っています。そこに干上がってから芽吹いたであろう植物が生えています。シロガヤツリ、アオガヤツリ。メアゼテンツキ、アゼテンツキ。アメリカアゼナ、アゼナ、タケトアゼナ、アゼトウガラシ。いずれも小さい個体ばかりですが、花をつけています。これらの類似種を識別するのは難しいです。
シロガヤツリとアオガヤツリは、小穂の違いが決め手です。シロガヤツリは全体的に白く、小穂が反り、苞葉が平開する。アオガヤツリの小穂は扁平で反らず、花序枝がある場合がある。
メアゼテンツキとアゼテンツキについても小穂が決め手です。メアゼテンツキの小穂にある芒は反らずに、アゼテンツキでは芒が反る。
アメリカアゼナ、アゼナ、タケトアゼナ、アゼトウガラシでは、葉に違いがあります。鋸歯がないのはアゼナのみ、他には鋸歯がある。アゼトウガラシの羽状脈は他の掌状脈と異なる。アメリカアゼナは葉の基部がくさび形で茎を抱かず、タケトアゼナは葉の基部が円形で茎を抱く。また、これらは共通して四角柱の茎を持つ。
加えて、クロテンツキ、テンツキ、コゴメガヤツリ、ヒデリコがありました。
水路の両側は、一段高くなってヨシに覆われています。ヨシの根元には、葉が2枚対生するフタバムグラが茂っています。ヨシの間にアメリカタカサブロウ、葉が幅広く茎を抱くエゾミソハギ。赤く紅葉しているタコノアシ、サデクサ、紫色の実をつけたイシミカワ。イシミカワの托葉鞘はまるで葉のようで茎は托葉鞘を突き抜けています。水路より内側の水際に近い場所にはキクモ、ヒメシロアサザ、ホソバヒメミソハギ、マツバイ。シロガヤツリは最も多く生えており、芽吹いたばかりの花はない個体です。
水路を戻る途中、泥上でヒルムシロ、ヨシに混じるヌカキビ、カンガレイ、ミズガヤツリ、マツカサススキ、アオヒメタデ、イヌタデ、ツルマメを確認しました。
泥の上もヨシの間も、見かけでは植生に大きな変化は無くても、多くの眼で探すと様々な植物が見つかってきます。複数人で歩く散策の醍醐味です。会話も二人より三人の方が俄然楽しくなります。今日もいつも通り楽しい会話でした。Kさんはタデ酢を試作するために、ヤナギタデの葉をせっせと収穫しながらタデ酢の作り方をレクチャーしてくれました。
堤防に戻った所ではSさんがミチヤナギの名前を教えてくださいました。緑の花被は白くふちどりされていました。
いつもながら同定は大変難しいと感じます。類似の種について、何が見分けるポイントなのかを把握しておかないとその場で識別できません。日頃から見分けるポイントを使えるように準備しておくことが大切です。一朝一夕にできることではありません。
お開きになる前に、Oさんからワタラセツリフネソウが新種と認められる過程のお話がありました。新種となった決定打は、酵素の違いだったということです。ツリフネソウとの形態上の違いだけでなく内部に存在する物質の違いが決め手になったわけです。遺伝子変異が生み出す内部の物質の違いを反映し、形態や生態が異なる新しい種が生じていく。いったい幾つの変異が積み重なると新種に分岐することになるのでしょう。きっとおびただしい数の変異を繰り返して、つまり途方もなく長い時間をかけて新種が生まれていくはずです。そう考えると、今ある一つ一つの植物に長い歴史があり、それぞれが尊い植物であると認識できます。(KMae)
9月20日、どんよりと雲が垂れ込め、雨が降ってきそうです。今日は昨年から懸案のハタケテンツキを谷中湖の護岸で探します。昨年の反省(10月では時期が遅かった)から、今年は少し早めて調査です。
まず、Oさんがハタケテンツキについて説明をしてくださいました。絶滅危惧ⅠB類で、遊水地では掘削後の数箇所で確認されました。その掘削土を撒いた道端にはその後あったそうですが、現在は見られなくなっています。かろうじて護岸には残っているそうです。
護岸を歩きはじめ、クルマバザクロソウとザクロソウ、ホソバツルノゲイトウをコンクリートブロックの隙間に見つけました。コニシキソウが地を這い、オオニシキソウは立ちあがっています。オオオナモミがまだ緑のトゲトゲの実を付け、ホソアオゲイトウはスックと立っていました。カゼクサは枯れる間際のようです。植物たちはコンクリートブロックの間に入りこみ、少ない土に根を伸ばしてスキマを上手く利用しています。
さて、お目当てのハタケテンツキは、水際ラインに沿ってブロックの隙間に生えていました。比較的背は低く種間競争には弱いかもしれません。種子はとても細かく小さいもので、水に運ばれて隙間の土にたどり着いたものが運良く発芽できたのでしょう。小穂がみっちりと1箇所に集まっている印象です。元々は畦や路傍に普通に生えて雑草として扱われていたことでしょう。絶滅危惧種として珍重されるようになるとは予想されなかった植物の一つでしょう。
階段状の護岸では、隅に土が溜まっている所に植生ができていました。多種類の植物が所狭しと生えています。
チョウジタデ。花が小ぶりで花床に毛がないことがウスゲチョウジタデとの違い。アメリカタカサブロウ。在来種のタカサブロウと違うところは、葉が細く鋸歯があること。タカサブロウは遊水地でも少なくなっているそうです。すかさず、Kさんがネット検索をして面白いことを教えてくださいました。タカサブロウの名の由来は、貧乏侍の高三郎がこの植物を利用したことから命名されたというのです。茎を折ると切り口が黒く変色しますが、これを墨代わりにして字を書いたというのです。真偽はわかりませんが、ストーリー性があり、面白いですね。Yさんが、メリケンムグラの白い4弁の花を見つけました。外来種で岡山県で見つかった種類だそうです。東海以西で生息とネットにはあり、遊水地には近年侵入してきたものでしょうか?一株だけホソミキンガヤツリもあり、黄金色の花序が異彩を放っていました。コゴメガヤツリ、カヤツリグサもありました。11時半頃まで護岸の散策を楽しみました。
護岸調査を終了して次は、6月にタヌキマメ保全のため、ヨシ刈を行った場所へ移動です。タヌキマメは昼頃から開花するというので、開花しているかどうか心配しながら現地に到着。茶色の毛を付けた蕾は、草に紛れているのに意外にも目立って見つけやすい。歩く道すがらあちらこちらに株があり、青紫の花を開いているものもありました。皆で分かれて株数を数えることにしました。Kさんと担当した場所では大小の36株を数えました。全体の合計数は結構大きくなりそうです。以前はもっと多くあったそうですから、残念な状況ですね。
タヌキマメはマメ科の一年草で、ネムノキやオジギソウと同じく、夜には就眠運動で葉を立てるように閉じるそうです。就眠運動は上下の葉枕の細胞が不均等に収縮・膨張することで起こりますが、それが朝と夕の時計遺伝子の発現によって制御されていると最近わかったそうです。牧野図鑑では根粒が描かれています。根粒菌と共生することで窒素源が少ない環境下においても生育できそうです。種子は、豆果が弾けて散らばり、あまり遠くまで広がることはできないようです。(KMae)
9月6日、久しぶりの調査会です。今日も34℃の夏日予報で身体にこたえる暑さになるでしょう。この暑い中、堤防に集まったのは7名、いつもの顔ぶれです。
今日の調査場所は、比較的新しい掘削池です。昨年キクモの大群落を見つけた掘削池とは別ですが、期待が高まります。外周の道沿いにヒメヨモギが大きく育っています。ツルマメがヨシに絡まって薮を複雑に束ねています。その薮を掻き分け、地面の凸凹に足をとられないように注意深く進むと、眼前に水面が。今回の掘削池はヒョロ長いひょうたん型?
驚くことに、ヒメシロアサザが池の周囲をぐるっと一周覆っています。小さい白い花が緑の葉の上に幾つも顔を覗かせています。水を覗くと、モサモサとトリゲモが生えています。大群落です。絶滅危惧種2種がこんなにたくさんあるなんて、ブラボーです。キクモも水中から地上まで生えています。昨年の池とこの池ではいったい何が違うのでしょう?キクモはどちらにもありますが、昨年の池はキクモの大群落でした。ここではキクモは昨年よりずっと小群落。ヒメシロアサザとトリゲモが優勢です。違いの原因は、埋土種子のストック量の差でしょうか。あるいはちょっとした環境の差でしょうか。不思議です。ヒメシロアサザの葉をひっくり返すと、裏は緑というより紫色、塊って浮かんでいる種子は茶色で丸い粒でした。
ここで水草の気孔についての疑問を調べてみました。睡蓮のような浮葉植物では、水と接触している葉の裏に気孔はありません。表側に偏ってあります。ヒメシロアサザは睡蓮と同じでしょう。一方、トリゲモやキクモの水中葉では、ふつうの沈水植物と同様に気孔を持たずに葉の表面から二酸化炭素を吸収しているはずです。
更に池の周囲を歩いていくと、オオイヌタデ、ヤナギタデ、などのタデ類が花を付けています。ニオイタデの濃い紅色の花も見つかりました。全体に毛・腺毛があり、茎を触ると匂いがつきます。ニオイタデの名の由来、虫を匂いで誘引するためでしょうか。マツカサススキは少し水際から離れた所に何株も直立しています。花がなくても葉舌の凹みが目印になるそうです。カヤツリグサ、タタラカンガレイもあります。
水際により近い場所には可愛い薄紫の花が咲いていました。サワトウガラシです。葉が線状披針形で全体的に細く小さい植物です。閉鎖花が葉腋に付くことがあるそうです。
池の周りを約5分の1周ぐらいはしたでしょうか、その先の植生は変わらないようでしたので引き返すことにしました。
今日の収穫は何といってもヒメシロアサザとトリゲモの大群落を見ることができたことです。掘削池の様子は遷移により年々変わると聞きます。来年は見られないかもと考えると、今日の調査会はとても貴重な機会であったと思います。(KMae)
アクリメーション振興財団湿地園の除草作業
7月5日、湿地園保全活動の日。湿度は高いけれど曇っていて昨日までの暑さほどではない。昨年に引き続き草取りをします。セイタカアワダチソウにコセンダングサ、アメリカセンダングサも抜いて除去します。つる植物のヤブガラシも引き抜きます。残すのは、フジバカマ、ノカラマツなど。セイタカアワダチソウは昨年に比べて少ない印象です。
小1時間ほど、草取りをしながら、湿地園の植物を堪能。湿地園にはお宝植物が目白押しです。失う危険性のある植物を湿地園に移植して下さったSさんのお陰で、見事に残っています。
ミズトラノオが随分と勢いよく生育しています。その隙間をぬって下方にミズアオイとヒメシロアサザが細々と生育しています。オモダカとジョウロウスゲはミズトラノオの上に背を伸ばしています。オモダカは白い花を咲かせています。ミズトラノオはこれから薄紫の花を咲かせます。
コガマも勢いがあります。ミクリはコガマの間に花を咲かせています。キクモは隙間で生育しています。ここでは水管理をどうしているのでしょう。雨が降らなければ干上がってしまいます。常に水に浸る管理を続けてくださっているのでしょう、きっと。ありがたいですね。
周りの草地にはミゾコウジュやケキツネノボタンが生えていました。渡良瀬遊水地にはキツネノボタンは無く、ケキツネノボタンかコキツネノボタンのどちらかが生育しているそうです。
草取りの後、今日もオプション調査会。ノジトラノオを見に行くことに。ノジトラノオ自生地は栃木市が保全を行っています。ヨシが生い茂っている一角に保全地があります。
高さ4mを越えそうなヨシに覆い尽くされ、内部は暗い感じがします。ほんの一区画だけヨシが刈り払われ陽が当たる場所に、白い花を密に重たそうに咲かせていました。Oさんによると、ノジトラノオは異型花柱性の花をつけるということ。早速近くの花のつくりを確認すると、その株はどうやら短花柱花のようでした。渡良瀬遊水地のノジトラノオでは、種子はできず、地下茎で生き残っているそうです。林立する周りのヨシの間にもノジトラノオの株が見え隠れしていましたので、ヨシ刈をもう少し周りに拡げると勢いを増してあげることができそうな気がしました。
ヨシの間にはハンゲショウやワタラセツリフネソウがかなり生えていました。半日陰を好んでいそうです。
これから9月6日まで活動は一時休止です。秋にまた、調査会でお会いしましょう。(KMae)
今日の活動は、ミズチドリの保全です。昨年度の観察でセイタカアワダチソウが侵入していることを確認。セイタカアワダチソウを引き抜き、除去します。自生地までは、堤防からの道を歩き、ヨシの薮を掻き分けて行きます。
道中、ノカラマツの花、ヤブジラミの白い花を愛で、ゴマノハグサの葉の匂いを揉んで確かめました。薄紫のクサフジも開花中。
いよいよ、藪です。薮の下には水で覆われた箇所が所々に。自生地に近い場所では、ヨシに紛れて貧栄養を好むチゴザサの群落が可愛らしい紅紫の花を付けていました。
少し開けた辺りにミズチドリの株が白い花を輝かせ、立ち並んでいました。昨年より数が多いように感じます。セイタカアワダチソウも増えています。加えて、ヨシが随分大きくなり、目立っています。日当たりが悪くなりそうです。
セイタカアワダチソウを抜きつつ、周りの植物を観察します。トモエソウの黄色い花が咲いていました。ヒメクグが生えています。Kさんがヒメナミキを見つけて教えてくださいました。どうやら以前より数を減らしているそうです。周りの植物に比べ小さく弱々しく見えます。目が慣れてくると開花前のヒメナミキが幾つか見つかりました。シロネやナガボノシロワレモコウも花は付けていませんが、株が複数見つかりました。もう少し経つと花の時期を迎えるでしょう。
猛烈な暑さのため、活動を早めに切り上げることにしました。帰り道、来る時とは見る角度が違うためか、新たな植物が見つかります。Sさんは蕾が付いているホソバオグルマを見つけました。コバノカモメヅルがヨシに巻き付き、星形の花を開いています。オニナルコスゲの小穂が少し茶色がかって大ぶりで存在感を示しています。
ハンゲショウの花下の葉が白く光っています。Yさんが、花がつかないと白くならないことを話してくれました。ハンゲショウの花は開花を知らせるための花弁や萼片がなく、とても地味です。代わりに葉を白くして開花を知らせるのでしょう。花の時期が終わると、白い葉は緑に戻ると言います。
近縁種のドクダミは4枚の白い苞葉があたかも花弁のように見えます。白い苞葉には葉緑素はないそうです。ハンゲショウの白い葉も実は蕾を覆う苞葉で、花序と同時に成長します。ドクダミの苞葉と同じく葉緑素を持たず、花が終わると葉緑素を合成して緑に変化します。白い葉は紫外線を良く反射するでしょうから、虫にはとても魅力的に見えることでしょう。
次回は7月5日に湿地園での活動が予定されています。湿地園にはシムラニンジンやミズトラノオなどが保護されています。貴重種を守る活動です。(KMae)
タヌキマメ保全作業
今日6月7日は5/3以来の活動です。ヨシの青刈りをしてタヌキマメの日当たりを良くします。新加入のKさんを交え10名で実施です。Oさんの案内で自生地へ。ヨシはすでに1mを優に超えて2mに近づく勢い。今日の主役のタヌキマメは一年草で、今年発芽したものはまだ10cm程度でしかなく、とても弱々しい。他の植物、とりわけヨシに被われた日陰では成長出来ず、種子はおろか花芽もつかないことが予想されます。これは何としてもヨシを刈って、日が当たる環境を確保してあげねばなりません。踏みつけて台無しにしないよう、タヌキマメの特徴を把握して作業開始です。
1時間ほどみっちりと皆でヨシ刈に精を出しました。ヨシが生い茂っていた場所は日が当たり、風が吹き抜けるように。夏までには70cmほどに成長し、7月から9月には開花して無事種子をつけるでしょう。開花時期にはまた、ここを訪れることを話し合いました。
植物の会では昨年からこの活動をしています。確実にタヌキマメは数を増やしました。以前はここを使用していた団体がヨシを刈っていたそうで、そのお陰でこの場所にタヌキマメが残っているようです。ヒトの手が入ることで守られる植物があることを再確認です。
青刈り後の調査会は、越流堤のマス型の堀にミクリの花を見に行くことになりました。ミクリは上部に数本の花序を出し、上に雄性頭花、下に雌性頭花をつけます。果実がイガ栗に似ているため、実栗と言うそうです。堀を順に探していきます。カヤツリグサ科のミコシガヤ、ヤガミスゲ、ヒメクグ、アゼナルコ、加えてイネ科植物が主です。ハルシャギクが見つかり、シムラニンジンに似ていると話題に。区別は葉のつき方で、シムラニンジンは互生に対してハルシャギクは対生。メダカが泳ぐ堀が複数。水が枯れている堀もいくつもあります。また、複数の堀にはイヌタヌキモが。イヌタヌキモは食虫植物で根がない浮遊植物。葉が変形した捕虫嚢が沢山ついています。捕虫は減圧スポイト方式で、一瞬にして獲物を吸い込むそうです。植物でありながら、消化酵素で獲物を分解して栄養分を吸収します。貧栄養下で生きられる所以です。イヌタヌキモの黄色い花を一つの堀に発見しました。ハンゲショウのみがはびこる堀もあり、ウキクサは数個の堀に。堀ごとに異なる生態系がつくられています。ここの堀は貧栄養の環境が保たれている大変貴重な場所です。昔はこのような植物・環境がもっと広い範囲に見られたであろうことを思い起こさせてくれます。
しかし、かなりの数の堀を確認しましたが、お目当てのミクリが見つかりません。どうしたことやらと訝しみながら、戻ってくると、なんと入口手前の木立に隠れた堀の中にイガ栗をつけたミクリが生えているではありませんか。やれやれ、とんだ骨折り損のくたびれもうけ?否、ミクリが早々と見つかっていたら、数多くの堀を探すことはなく、イヌタヌキモにも出会えなかったはず。怪我の功名と言うのが適切?
次回6月21日はミズチドリを守る活動で、セイタカアワダチソウを除去します。(KMae)
サクラソウ群落でセイタカアワダチソウなどの除草をしました
前回の調査から2週間後ずいぶん草が伸びています。サクラソウがまだちらほら咲いていますが草に埋もれています。いろんな草が土から湧いて出てくるようです。
さてそれもサクラソウにとっては自然なことかもしれません。しかしやっかいと思われるのがセイタカアワダチソウです。もともとはなかった植物であるとともにその繁殖力のすごさはものすごいものがあります。気になっていることは、引っこ抜いてみるとわかりますが、根茎が横に長くはい、密集すると地表のすぐ下が根茎だらけになってしまうのです。サクラソウの根茎がちょうど圧迫されるのではないかと思います。いつかその様子を調べてみたいものです。
昨年もセイタカを抜いたはずですが、今年も立派なものがわが物顔で出ていました。これは長い戦いになりそうです。
午後は場所を移動してお楽しみの植物探索をしました。レンリソウがこんな所にもあった!まだつぼみでした。まもなく赤紫色の花が咲くでしょう。ゴマノハグサがたくさん!トモエソウも。まだ芽だしの季節です。(MO)
サクラソウ記録調査
4月19日、今日は一日サクラソウの調査です。何の調査かといえば群落の動態調査。群落内の花柱性のようすを今年から追跡していくのです。数年後には渡良瀬遊水地の群落について、繁殖と個体群の消長にまつわる動態が見えてくるはずであり、そこから群落の保全についても具体的に何をなすべきなのか、策を検討することが可能になるでしょう。(上手くいけばの話…。)
発端はIさん(植物の会)が7年前に行った調査研究です。Iさんの研究によると、「群落には等花柱花が存在している」、「種子による繁殖が起こっているらしい」ことがわかっています。しかし、詳細についてはわかっていません。
サクラソウは二型花柱性を持つことで知られています。長花柱花と短花柱花が本来の二型ですが、等花柱花も実は存在します。また、株は、栄養繁殖または種子繁殖の二通りで増えていきます。
長花柱花(柱頭が高く葯が低い)と短花柱花(柱頭が低く葯が高い)の二型では、異なる2つの花柱花間で送粉昆虫により異型花粉がもたらされて受精し、種子が形成されます。自家不和合性も相まって、自殖では種子はできずに他殖に頼るシステムです。これは自殖による近交弱勢を防ぎ、他殖によって遺伝的多様性を担保するための仕組みと考えられています。
一方、等花柱花(柱頭と葯が同じ高さ)の種子形成については、自殖によるとされる田島ヶ原自生地の例があります。しかし、渡良瀬遊水地において種子形成が起こっているのかどうか、それが自殖によるのかどうか、わかっていません。調べてみる必要があるでしょう。もし、自殖によって種子ができているならば、他殖による種子が集団内でできなくなった場合(送粉昆虫がいない、または単一の花柱花しかない場合)に等花柱花は有利になり、増えていくことが予想されます。
余談ですが、サクラソウ属のクリンソウにおいては、二型花柱性による他殖の仕組みが崩壊して、自殖可能な等花柱花への移行が起きているとされています。サクラソウにもその危険性があるように感じられます。
去る4月5日と4月12日には、この調査のために各群落にビニール紐で縦横25cmの方形枠をつくり、準備をしてきました。
夏日の4月19日に集まった11人が調査にあたります。各群落に担当者が割り当てられ、調査開始。方形枠ごとに一株ずつサクラソウの花茎についた花を開いて花柱性を調べ、株数を数えていきます。しゃがんだ体制は結構きつく、花の開き方にもコツがあり、根気がいる作業でした。1ヶ所が終わると次の群落に移動します。10時から始まった調査は15時には全て終了しました。終了間際にMさんがトネハナヤスリの葉は食べられると教えてくれました。口に含んでみるとほのかに甘みを感じ、一日の疲れが癒された気がしました。
担当した 2ヶ所の群落についての結果です。片方は複数群落の内の一つで、短花柱花ばかりの群落でした。周囲には長花柱花の群落があり、花粉の供給源は存在しています。送粉昆虫があれば種子形成が可能な状況です。もう一方は離れた場所にある単独の群落で、長花柱花ばかりかと思いきや、一株の等花柱花が交じっていました。長花柱花と判別した株の中には、柱頭の高さが明らかに高いものもありましたが、葯に近接する低さのものも見られ、柱頭の高さにはバラツキがあるようでした。
他の群落も含めての全体のデータが集まったところで、いったい何がわかるのか、またそこからどんな新たな疑問が湧いてくるのか、これからのお楽しみです。始まったばかりですが、これからの展開がとても面白くなりそうで、ワクワクしています。(KMae)
サクラソウ記録調査の準備作業
1週間後のサクラソウ記録調査の準備のために、アクリメーション振興財団の手によってすでに設置されていたイノシシよけの柵を利用し、ひもを張って方形枠を作りました。なかなか時間のかかる作業で大変でした。
2025年度総会を開催しました。
本年度の事業計画等が決定しました。

会員内セミナーを開催しました。
発表者:土門康夫
3月15日(土)に 栃木市渡良瀬遊水地ハートランド城で「セミナー」が開催されました。たっぷり2時間を超えるお話を土門さんがして下さいました。今回の演題は『野草探索の楽しさ、面白さ 画像で綴る『僕の野の花ノート』と野の花から教えられること。私の拙い経験ら・・・』です。
中身が濃いお話かつ画像が綺麗で、耳と眼で楽しんでいる間に時間が過ぎてしまいました。写真が美しいのもさることながら、植物をとことん調べる熱意・姿勢が素晴らしく、Oさんと同様に感銘を受けた一人です。2016年4月からパソコンに書き始めたという、9年にわたる土門さんの「野の花ノート」。後でファイルを探し易いように、ファイル名を利用して目次が作ってあり、「ア行〜ワ行+その他」に分けた目次からファイルが開けるように整理してありました。ファイル番号から察するに、ファイルの数は1000を軽く超えているようでした。その中からのお話で、内容が多岐にわたっていましたので、全てをご紹介できないのが残念です。主な内容を順不同で紹介します。
① 野草探索を始めた動機とその魅力
きっかけは、散策拠点の理窓公園で出会ったヒオウギとジャコウアゲハ。名前を知ることから始まり、ヒオウギが一日花だとわかり、ジャコウアゲハの幼虫の食草がウマノスズクサであることがわかり、やがて、なかなか見つからずに探していたウマノスズクサを隣接する理科大の薬草園で見つけるにいたり、土門さんの歓喜の声が聞こえたような気がしました。ウマノスズクサの発見は嬉しかったでしょうね。探索の楽しさの一つは、「植物に教えられることが沢山あること」と土門さんは仰います。「沢山」の中身は、造形、分類、生態、生存戦略、知恵、進化に関すること等々です。花の造形美をオニバス、ホシザキユキノシタ、ウスバサイシン、カンアオイの写真で紹介して下さいました。山下一夫著「かんあおい」、足田輝一著「草木を訪ねて三百六十五日」のご紹介も。
② 幾つか同定に迷った植物のお話
「探索の楽しさには、同定の楽しさもある」と土門さんは仰います。新種発見への期待がそこには含まれるかもしれません。植物好きの原点は神戸の六甲山にあったそうで、六甲山で出会ったオオバノトンボソウには少なからず新種発見の期待を当時抱いた?ようでした。同定に欠かせないのが、基準標本との照合だそうで、標本の重要性を話されていました。フジバカマの同定では、ヒヨドリバナ、サワヒヨドリとの区別に迷われたようです。根元近くの葉が3つに切れていることが同定の決め手になったそうです。キクの仲間の同定では葉の特徴が手がかりになり、グミの同定では消去法で候補を絞っていき、実体顕微鏡で葉の裏にある腺点を確認したことが決め手で、ナツグミと判明したお話をされました。実体顕微鏡を使うことで世界が広がったともお話下さいました。
③ 散策拠点の理窓公園と利根運河
土門さんの散策拠点である理窓公園(理窓会記念自然公園)について説明をして下さいました。公園の南側には利根川の水を江戸川に引いていた利根運河があり、東西に利根川と江戸川が流れている場所で、谷津と呼ばれる低地です。公園は東京理科大キャンパス内にあります。利根運河では外来植物のアカボシツリフネが生息していますが、数が減少しているそうです。画像を見せてくださいましたが、花の形はワタラセツリフネソウにそっくりで、花の色はオレンジに赤い斑点が目立っていました。
④ ラン科の植物の特徴と神戸大の末次健司先生が最近明らかにした「コオロギランと牧野博士が残した謎の解明」
六甲山で土門さんが出会ったオオバノトンボソウはラン科の植物です。ラン科の植物の特徴は花弁3枚のうち1枚が他の2枚とは異なる唇弁、萼片は3枚、距があることもある。見事な写真で、ラン科の花の特徴を説明して下さいました。ツレサギソウ、サギソウ、ネジバナ、キンラン、シロバナキンラン(キンランのアルビノ)、ツクバキンラン。ツクバキンランでは、唇弁が他の花弁と同じになる変異が見られ、これをペロリズムと言うそうです。初めて聞く言葉でした。改めてネット検索をすると、ツクバキンランの分布に関する論文がヒットしました。花弁の変異と柱頭の変異が連動しているとあります。虫媒無しに受粉するための戦略として、連動した形質の獲得が起こっているものと思われます。驚きと共に植物の逞さを感じます。画像は、ツチアケビ、アツモリソウ、クマガイソウ、カモメラン、スズムシソウ、ミズチドリと続き、最後はコオロギランです。牧野博士が描いた画を元に、マキシモヴィッチが柱頭の下にある指状の付属物に因んでコオロギランと命名しました。しかし、肝心の付属物の生態的意義は130年以上にわたり不明だったそうです。その謎を解明したのが、神戸大の末次健司先生。以下は解明した内容です。コオロギランの花が咲いてからおよそ3日後に付属物が倒れ、付属物と花粉塊が接触します。付属物内では花粉管が伸長し、自家受粉が可能になります。付属物は昆虫が不足する環境下においても確実に子孫を残すためのものと考えられるそうです。ツクバキンランのペロリズム、コオロギランの付属物、それぞれ虫媒花の子孫を残す戦略として興味深いですね。
⑤ 旧植物体系とAPG体系の違いについて
旧植物体系では観察からわかる形態の特徴を元に系統が分析されていました。昨今はDNAの塩基配列を元に系統解析が行われています。その結果、旧植物体系とは異なる、APG体系(2009年)の分類に移行しています。植物は7つの門が区別され、被子植物門では単子葉類と双子葉類に分かれていましたが、基部被子植物、単子葉植物、双子葉植物に分かれます。特にこれまでと大きく変わるのは、ユリ科だそうです。
⑥ 本草学から植物学への黎明期、シーボルトが日本の植物の豊かさに魅せられ異国に持ち帰った植物などのお話
若い頃学生の頃、六甲山でシチダンカ(ヤマアジサイの変種)が再発見されたことから、シーボルトには興味を持っていたそうです。シチダンカはシーボルトの「日本植物誌」に採録されていながら、それまで見つかっていなかった植物です。シーボルトが日本の植物(ユリ、アジサイ、ツバキ、ギボウシなど)を自国に持ち帰って広めたことや多数の日本の植物標本を残したことなどについてお話下さいました。朝井まかて著「先生のお庭番」は、シーボルトを題材にした小説でおすすめだそうです。
⑦ 流山で見つけた「アオヒメタデ」と「ノジオカトラノオ」の同定経緯について
お住いの流山市でアオヒメタデを見つけ、標本を作られたそうです。葉が細長く緑白色の花が特徴です。赤花のヒメタデと同種扱いになっていますが、利根川水系のみにあるタデだそうです。(新種の可能性があるのでしょうか。新たな展開では、土門さんが作られた標本の出番があるかもしれませんね。)「ノジオカトラノオ」は理窓公園で発見し、千葉県立博物館の先生に苞が花序から突き出している画像から確認してもらい、「ノジオカトラノオ」のお墨付きを得たそうです。(茎に開出毛がある)様からノジトラノオの交雑種と判明です。「ノジオカトラノオ」はオカトラノオとノジトラノオの雑種です。紛らわしいものに、「イヌヌマトラノオ」と「ノジヌマトラノオ」があります。イヌヌマトラノオはオカトラノオとヌマトラノオの雑種で、ノジヌマトラノオはノジトラノオとヌマトラノオの雑種です。ネット検索して画像を見ると、雑種の花穂は面白いことに両親の形質を合わせ持ち、まるで二親をわざわざ示したいが如くです。また、ハートランド城の近辺にて見つけたワカシュウスミレは側弁に毛がない特徴から判明したそうで、渡良瀬遊水地に生息するタチスミレ、アリアケスミレ、ニョイスミレに続く、第4のスミレと言うことになるでしょうか。(KMae)