2018/08/15 更新
渡良瀬遊水地は湿地の特性として水はけがよくないことから、長雨や豪雨のとき、しばしば冠水します(図2・3)。
これによって小型の植物は水没し、水が引くのを待つことになります。
さらに、渡良瀬川(わたらせがわ)、巴波川(うずまがわ)、思川(おもいがわ)が極度に増水したときは、水が越流堤を越えて内部に流入し、調節池全体が大きな湖のようになります。これは数年に一度といった頻度で起こります(図5・6)。
メヒシバとコニシキソウは、花壇、空き地、畑、道ばたなどでごく普通に見られる植物で、特にメヒシバはいくら草むしりをしても生えてくるやっかいな雑草としておなじみです。
しかし渡良瀬遊水地では,人がよく通る小道などでときどき見られるものの、ヨシやオギの湿地にそれらが全く生えていないのが不思議です。
右の画像は、谷中村遺跡周辺で、2011年9月10日に撮影したものです。この小道は1週間ほど前に台風の影響で冠水しました。
道上に生えている植物が枯れているのがわかります。ところが周辺の湿地の植物は枯れていないのです。
図11・12で枯れているのはメヒシバとコニシキソウです。
普段はあまり冠水しない道の上にあったメヒシバとコニシキソウが、調節池内の水位の上昇によってしばらく水没した後、このように枯死していたのです。すぐそばに湿地によくあるオオクサキビなどが写っていますが、こちらは元気でした。
このことから、メヒシバとコニシキソウは冠水に特に弱いのではないかと想像されます。
(これは推測にすぎず実験によって証明される必要があります。)
一般化すると、湿地で植物が恒常的に生育できるためには冠水に耐えることが必須なのではないかと思えます。その際どれくらいの日数耐えられるかも重要ではないかと考えられます。
渡良瀬遊水地は面積が広く地形の凹凸があるため、様々な水環境が形成されています。
これまで国の絶滅危惧種が64種記録されており、それがどのような水環境に生育しているかはそれぞれ異なっています。
次の図は渡良瀬遊水地で、水分量の異なる立地にどの絶滅危惧種が生えているかを示したものです(光、栄養塩など他の要因は考慮せず、また個体数が少ないなどで判断しにくいものは除いてある)。
このように異なる水環境には異なる絶滅危惧種が生育しています。
渡良瀬遊水地では、多様な水環境が、多様な植物を育くんでいると言えます。
渡良瀬遊水地はしばしば冠水し、植物がそれに耐えられることが、生育の条件になっている可能性があります。
水環境の多様性が、生育する種の多様性をもたらしていると考えられます。
(文責 MO)
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