2019年
よく晴れました。まだあちこちが立ち入り禁止の遊水地で、泥水に浸かった植物の調査です。何が生き残って、何が弱ったのか。
まずはタヌキマメを確認。実をつけた株を見つけ、ああ良かったと思ったのも束の間、もしかしたらタネが未熟のままかもしれないという不安が。ナンバンギセルも実をつけた株が複数見つかったので、大丈夫・・かもしれませ ん。スミレ類は大丈夫。帰り花も見られたし。コイヌガラシも健在。アオミズも元気。 アキノノゲシもまだ花をつけていました。色鮮やかなイヌタデも。
ところどころにイノシシの仕業と見られる大きな穴があいているのさえ、ここ遊水地ではホッとする眺めです。満水で、みんな逃げていってしまって、周辺の地域で迷惑をかけるのなら、もう大丈夫だから戻っておいでよ、と誰しもが思います。
この季節に、胞子のうをつけたイヌスギナがありました。秋に見られてもおかしくはありませんが、多く見られるのは圧倒的に春から初夏のイメージがあったので、うれしい驚きでした。
あと心配なのは泥水が流れ込んだことで、土壌が富栄養化され、希少な植物がさらに減少することですが、それは来年以降の調査を待たねばなりません。どうかあまり減少しないよう、祈るばかりです。(YT)
台風19号の影響で中止しました。
日光連山から足尾、赤城山までくっきり見える晴れ渡った空のもと、今日の調査地は植物の会としては久々の湿地です。
会員の情報では、ヒメナエがたくさんあるとのこと。期待しましたが、何しろ花が小さいうえに草丈も小さい。本当にあるの?と疑い始めたころ、「あった!」の 第一声。それからはあちこちで「あった」、「あった」の連続報告です。
こんな小さな花が、淘汰されることなくしっかり息づいていることの驚き。何でも なく見える貧栄養の草原が、豊かな宇宙の1構成員だと実感しました。
イヌセンブリも、あきらめかけたころ、今期初見の花に出会えました。その他、ちょっと小ぶりのヒメシオンや、アリノトウグサの名残りの花、なんとか確認できたシランの葉など・・楽しい発見が相次ぎました。
まだ未調査の場所が近くにあると、全員でヤブをこいでこいでいけるところまで行ってみましたが、断念。ヨシが4mもある今の時期でなく、もう少し早い時期に再挑戦しようということに。
午後は会員の情報で、ナンバンギセルの観察に。こんなにたくさんあるとは思っていなかったので、みんな大満足。寄生植物とのことなので、少し掘り取ってみたら意外に立派な根が。本当に寄生植物?と不思議でした。
そのあとも盛りだくさん。まずは、マルバノサワトウガラシが見つかったという掘削池に行って探索。花が終わっていたので難儀はしましたがなんとか発見。アゼトウガラシの花やアメリカキカシグサの花に囲まれての探索は、それなりに楽しかったです。
そしてそのあとは、やはり会員が発見したコシオガマの自生地へ。本当に「道端」 で、花盛りで、なんでこんなところに、とポカンとしてしまいました。
遊水地は本当に奥が深い。少しくらい歩いたことがあるからって、知ったつもりになってはいけないと、つくづく感じさせられる出来事でした。
そうしてきっと、まだまだ私たちの知らない顔が、この遊水地のどこかに眠ってい る・・ではなくて、微笑んで待っている・・ような気がします。その顔に、この次の調査で会えるだろうか、いや、次の次かな?と想像するだけでワクワクします。次回が楽しみです。(YT)
今回は、一般参加の第二回観察会でした。参加の方の希望で、タヌキマメを見に行きました。開花は午後ということなので、咲いているかどうかと思いながら、現地に赴くと、やはりまだ咲いていないものが多い中、それでもいくつかの株には花が咲いていました。タヌキマメは、名前も実物も本当にユニークで、花が咲く前は、茶色のふさふさした毛に覆われた萼に包まれているのに対し、開花すると、青紫の花の可憐さ、そのギャップの大きさに驚きます。タヌキマメという名は、この長い毛に覆われている萼が狸(小狸)に似ているから付けられたとのことです。
参加の皆さんは、遊水地にある花をできるだけ多く見たいとのことでしたが、なにしろ遊水地は広大で、花も散らばっているため、午前の観察会は、タヌキマメの群生地(以前は群生していたようですが、現在は草刈り等で少なくなっています)のみで終了時間になりました。その他、アオヒメタデ、ツルマメ、ヒメジソ、アキノノゲシなども咲いていました。ツルマメは大豆の原種と言われ、大豆よりは小さいですが、ちゃんとマメができていました。
午後は、会員有志で、今満開のワタラセツリフネソウの4タイプ(花の内部の色と斑点の有無でタイプ分けされ、内部に黄色の部分があり斑点あり・なし、内部が白で斑点あり・なし)の頻度の調査を群生地で行いました。その結果、黄・斑337株、白・斑199株、 黄・無斑6株、白・無斑4株で、黄色の斑点のものが最も多く、無斑のものは僅かでした。調査場所によっても違いがあると思いますので、さらに調査を進める必要があると思います。(HS)
「広める活動」にも同じ記事掲載
今回観察されたワタラセツリフネソウ、黄・斑点、白・斑点、 黄・無斑、白・無斑の4タイプ
暑いというよりは熱いような日差しの中、ミズアオイとの出会いを求めて、掘削池に調査に入りました。
でも残念。ミズアオイがあったであろう場所には、イノシシの仕業と見られる 穴、穴、穴。フンもたくさんしてあって、踏まないようにするのが大変でした。
残念なことはそれだけで、アゼトウガラシやアメリカキカシグサ、ホソバヒメミソハギなどは小輪ながら花盛りで、楽しい眺めでしたし、遊水地ではなかなか出会えなかったキカシグサもありました。ミズマツバや、キクモの小群落も。ミゾハコベも見つけました。
黄色い花を見つけるたびに、皆で立ち止まって検証です。これは、ウスゲチョウジタデか、チョウジタデか? ルーペで見た限りではウスゲ・・に軍配が上がったので すが、ちょっと感じが違う、という意見も。生き物は難しいです。個体差もあるし。
周辺の地域の田んぼでは、めっきり見かけなくなったヒメミソハギに複数出会えたのも今日の収穫でした。そして最後は、水辺を少し離れたところに、タデ科の大群落。アキノウナギツカミやサデクサ、ヤノネグサ、ヤナギタデなどなど・・ みんな 愛らしい花をつけ始めていました。そうか、遊水地はこれから、タデの季節に入るんだっけ、と気づきました。
タコノアシも色づき始め、時おり爽やかな風も吹いて、それなりに充実した、初秋の調査会でした。(YT)
今日は、年度前半の活動を振り返る拡大運営委員会の後、有志で臨時の調査会を行いました。
まずは、タヌキマメの生育状況確認のため、自生地へ。花はまだ咲いていないものの、複数の株が点在していることを確認。ただ、年々その数が減っていること、それから暑さのためか しおれているものが多かったのが気になりました。
その後はヒルムシロ探しです。というのは、午前中の活動報告の中で、前回掘削地を調査した時、アイノコヒルムシロかもしれない個体が見られたと発表があったのです。遊水地内で、純粋なヒルムシロを探して、比較検討してみようということになりました。
結果は、残念。ここならあるだろうという場所は思ったより水位が高く、浮遊植物はコオニビシだけでした。ただ、久しぶりに近くで見たコオニビシの花が可憐だったし、若い実の4本の刺も引きあげて手元で確認できて、満足でした。
付近にはマツカサススキが開花し始め、タコノアシも咲いていました。
燃えるような暑さの中、ほんとうに皆熱心で、植物の会会員って、すごいと思います。解散後も、ホソバオグルマを見て帰るという人、隣接地でコウホネを見て行くという人もいて、帰宅は何時になったことでしょう。(YT)
心配された天気はまずまず、新会員も2人加わって、久しぶりの第二調節池掘削地 の調査です。
最初はあまりのガマ群落に、不安がつのるだけ。ここには、ミズオオバコがあったのに、ここは、ミズアオイかもしれない株が・・・。しかし水辺に出たとたん、そうした不安は雲散霧消。
「これはエビモです。こっちはオオトリゲモ、あっちはサガミトリゲモ。」 ベテランの同定に、初心者軍団はメモをとるのがやっと。
水辺から少し陸に上がると、イヌゴマの花盛りの株があったり、エゾミソハギがもう咲いていたり、目には楽しい光景がいっぱい。
ホソバミズヒキモは初めて見ました。ヒルムシロは去年ほどではないけれど見られたし、キクモもミクリも少しありました。そして、カンエンガヤツリのドライフラワーのそばには・・なんと、イチョウウキゴケが! 去年あったからといって、今年もあるとは限らない、でも去年なくても今年はある。遊水地の面白さです。 私たちの試行錯誤を知ってか知らずか、コウノトリが悠然と飛んでいきました。
午後は有志でノジトラノオ自生地へ。今年は、かなり花が増えたようで、喜ばしいことです。そして、周りのヨシの株元には、複数のトキホコリが。花時にも、ここまで入ってこられればいいのですが。
さらに、シランの株を見たというYさんの情報をもとに、その場所に移動。紫の花の株も白花のもあるということでしたが、見つかったのは紫の、花後のもの。来年は、花時に訪れたいものです。ツルマンネングサが行く先々にあり、チゴザサは花盛りで、遊水地のの広大な眺めを見て、楽しい探索でした。いえ、散策かな?
どこに行っても、何かしら発見のある遊水地はすごい。今さらながら、そう思います。(YT)
雨天のため中止しました。
今回の調査会は、NHKテレビ「新日本紀行」の取材陣が入ることになりました。
始まるまでは取材陣のカメラを意識したりしていたのですが、 いざ現地に分け入ると、もう目の前の植物に夢中。直接カメラを向けられた人以外は、タチスミレのお花畑にハナムグラの群生、ホソバオグルマの芽生えなど、絶滅危惧種を堪能しました。マイヅルテンナンショウの開花株やシロバナタカアザミの咲き始めの株も複数あって、充実の調査地でした。ただ、外来種のキキョウソウが所々にきれいな花を咲かせていたのが、目をひそめたらいいのか、単純にきれいだなあと思えばいいのか・・ 取材陣は1時間強で引き上げました。7月20日に4Kで放映されるそうです。可能な方は、ぜひご覧になってください。
そのあとは第三調節池でレンリソウの観察。このへんにあるはずだとずいぶん探したけれど、でもまさかここにはあるまい、と思った場所にたくさん咲いていて、思い込みの不毛さ、考えの甘さを痛感しました。そのあとは有志で、この前ジョウロウスゲを見つけた池の周りを、できるだけ歩いてみようということに。道なき道がほとんどで、しかも水位が高く、難儀しましたが、向こう岸にあたる場所のエゾミソハギの群生、アゼナルコの大群生、マツカサススキ、ウナギツカミの仲間、タコノアシなどに出会えるたび、疲れが吹き飛びました。ハルタデは咲いていましたが、葉っぱだけのタデはいっぱいあっても何のタデだかわからない、とりあえず食べてみようと口にしたら、辛いこと辛いこと! ヤナギタデだったのです。
風が吹いて、ヨシの葉を波たてる。オオヨシキリが鳴く。アカボシゴマダラの春型が、白い羽を翻して飛んでゆく。オオルリハムシやコガネムシが、草むらでキラキラ光っている。遊水地は、いいなあ! とても自由で、私たちと虫たちと鳥たちと草木たち、そして風や光や雲や水、みんな同等です。(YT)
「広める活動」にも同じ記事掲載
快晴の空の下、植物の会として初めての一般参加者を交えての観察会が開かれました。場所は、一般参加の方の希望をお聞きして決定。午前には池内水路の水際へ。先日の大雨で水を被り、ヤガミスゲ、コギシギシ、コイヌガラシ、オオアブノメなどがみんな泥色をしていたのが残念でしたが、絶滅危惧種がとにかく、足の踏み場もないほどあるのが今さらながら驚きでした。その後場所を移動して草地へ。タチスミレがそこここに咲き、トモエソウ、コキツネノボタン、ハナムグラも見られました。この希少なタチスミレが、こんなにあるというのも、遊水地のすごさというか、特殊さというか・・・
午後は有志でジョウロウスゲ探しです。ごく少ない情報を頼りに、ここならあるかなあと思えるところをウロウロ。だめだ見つからない、とあきらめて解散しようとしたところへ、遅れてきた 会員が、なんと「あっちで見つけたよ」。 暑さも疲れもそっちのけでついて行って、見つけました! 2株。独特のモフモフ感。いいスゲです。そばにはなんと、イヌタヌキモまで。アジアイトトンボが涼しげに飛んでいました。帰り道のヒメヨモギの香りがいつもに増して爽快でした。(YT)
「広める活動」にも同じ記事掲載
令和となって最初の調査会です。
良いお天気です。
ヨシ・オギの芽立ちはやや遅いようで、あたり一面よく見渡せます。
もう少したってヨシ・オギが生長するとまったく視界がきかなくなるので、この広々感は今だけです。
風が心地よく、一年で一番すがすがしい季節です。
今回は第1調節池の西の方に行きました。今までほとんど調査していなかった場所で、何があるかわからずわくわく感いっぱいです。
そんな場所はまだいくらでもあるのが渡良瀬遊水地です。
水環境の異なる場所があり、それぞれまったく違うものが生えていました。
水気の多い所には、オニナルコスゲ、ショウブ、ヌマアゼスゲ、シロネなどがありました。シロネは葉が一部枯れていて、遅霜に当たったか乾燥があったと思われました。春先の気象がその後の生長に影響することはよくあります。
乾燥草原にはトネハナヤスリ、ハナムグラなどがありました。
鳥の巣があって、卵がありました。
午後、池内水路の絶滅危惧種を見に行きました。
カワヂシャ、キタミソウ、コギシギシ、イヌタヌキモ、ミズタカモジ、オオアブノメが今年も見られましたが、まもなく水位が上がってしまうでしょう。
会場:ハートランド城(旧藤岡スポーツふれあいセンター)研修室
発表者:齋藤広道氏
テーマ:「植物分類体系について」
内容:
植物の分類について、会員より、属、科などより上位の分類階級について知りたいとの要望があったとのことで、長年環境調査に携わっている齋藤広道氏から解説がありました。
現在は、ドメインが生物の分類の最も上級で、さらに、界、門、綱、目、科・・・という分類階級となっていることを、ヒト、ワタラセツリフネソウ、大腸菌などの具体例をあげて説明されました。
植物については、新エングラー体系、クロンキスト体系、APG体系の3種の分類体系、および、それらの上位の分類階級について説明がありました。とくに、APG体系と日本で従来使われてきた新エングラー体系との違いについて、詳しい解説がありました。APG体系は、DNAの塩基配列情報による被子植物の系統解析に基いたもので、今後の主流となるものですが、科や属が大幅に再編されていて、慣れるまでは大変です。日本に自生している植物を中心に、APG体系Ⅲのそれぞれの目に属する科を示した表を作成され紹介していただきましたが、APG体系を用いる上で、大変参考になるものだと思いました。
関連の書物もたくさん紹介していただき、植物分類について、理解が深まりました。(HS)
会場:ハートランド城(旧藤岡スポーツふれあいセンター)研修室
発表者:大和田真澄氏
内容:
1. 「渡良瀬遊水地の土壌の富栄養化が植生に及ぼす影響」
渡良瀬遊水地には、ヨシ・オギが3m以上の高茎草原(富栄養地とみなされる)と2mに達しない低茎草原(貧栄養地とみなされる)があります。2018年9月から10月、それらの草原に、1m四方に枠を張って(コドラート)、そこに生えている植物名とそれがどのくらい地面を覆っているかを調べた結果について、報告がありました。
これら2種の草原では、植物相が大きく異なり、低茎草原では、植物の出現種数が多く、とりわけ絶滅危惧種が多いことを、調査データから説明されました。会員が、経験として感じていることを、調査結果として明らかにされ、納得!でした。
また、渡良瀬遊水地の富栄養化は河川によってもたらされたことが、航空写真から推測でき、富栄養化によって、ヨシ・オギが生長し高茎草原が形作られ、光を奪い、他の植物が生育しにくい状態になったことが理解できました。
土壌の富栄養化については、報告がほとんどないということで、貴重な調査結果といえます。
2. 「ミズアオイの話」
ミズアオイを、小学生向けに教材化した内容を紹介していただきました。花びら、ガク、雌しべ、雄しべ、異形雄しべ、ミツバチによる受粉、実、種などについて、わかりやすく解説し、凖絶滅危惧のミズアオイから環境保全にも目が向けられるように考慮したもので、環境教育としても重要だと思いました。小学生に戻った気分で楽しく拝聴しました。
(HS)
会場:ハートランド城(旧藤岡スポーツふれあいセンター)研修室
内容:
1. 「ワタラセツリフネソウはいかにして新種になったか」(発表者:大和田真澄氏)
渡良瀬遊水地でワタラセツリフネソウを新種として明らかにした大和田真澄氏による講演です。関東各地の博物館の標本や各地のツリフネソウの調査、さらには愛知教育大学の渡邉教授による遺伝子の研究から、新種として確定されるまで、また、その後明らかになったワタラセツリフネソウの生育地について、詳しい説明がありました。出席者一同興味深く拝聴しました。
2. 「渡良瀬遊水地の植物 保全・発芽」(発表者:白井勝二氏)
渡良瀬遊水地で貴重植物の保全とともに、発芽実験を行なっている白井勝二氏から、保全活動とその効果、発芽や成長過程の観察結果などについて具体的に説明がありました。今年度も保全活動に尽力しようという意欲が高まるとともに、発芽実験等の貴重なデータの持つ意義を心に刻みました。
(HS)